精神を含む障害者の交通運賃福祉割引のあり方について再考★

行政支援

本ブログにて以前、「鉄道・航空運賃の精神障害者割引が遅れている」という題名で、精神障害者に対してだけ依然として鉄道をはじめとした交通運賃割引の取り組みの遅れについて論じました(当該記事は以下を参照ください)。

本稿の初稿を書いたのが2016年で、再構成をしたのが2020年なのですが、4年経つ間に、国内航空路線における障害者割引が三障害同一のものになったり、割引を行う交通事業者が増えたりと、かなり情勢の変化がありました。それでも、JRグループを筆頭に交通運賃の障害者福祉割引制度の整備には依然消極的で、体系的なものがいまだ完成していません。

本稿は、交通運賃の障害者割引についてあるべき姿を論じた、筆者の政治的な主張です。

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交通運賃障害者割引制度に現在も残る課題

当該記事では、専ら鉄道会社や航空各社等の交通事業者に取り組みを促すように主張しましたが、これには賛否両論がありました。かなり一面的な考え方であったことを認めますが、次のような課題が現在でも依然として残っているのです。

● 割引が適用されない精神障害者と、すでに割引が適用されている身体・知的障害者との間の不公平が存在すること(「障害者差別解消法」等の趣旨やSDGsの動きに反する)

● すでに割引制度が適用される身体・知的障害者でも、単独旅行の場合、100km未満の距離には割引が適用されない問題(今や車いすでも介助なしに一人で移動する時代であるにもかかわらず)

● 三障害の手帳の様式が統一されていないことで(第1・2種欄の有無、手帳カバーの色など)、割引適用時、現場での混乱があること(手帳のバリエーションが多すぎて、現場の職員がよくわからない)

推進に消極的な国と交通事業者の言い分

現在、国土交通省は、鉄道事業者に対してすべての障害に対して割引を適用するよう、「協力」を要請していますが、地方の一部の中小鉄道事業者を除き、その協力要請には応じていません。

特に、鉄道会社の代表であるJR各社の見解は、精神障害の当事者には大変厳しいものです。国土交通省の、JR東日本に関する業務監査での福祉割引に関する同社の見解は、次の通りです。

福祉割引については、JR東日本では、国鉄時代から引き続き実施している割引を含め、本来は国の社会福祉政策として実施されるべきものとの考えであることは承知している。

参考までに、JR側の見解全文は、次のURL(Yahoo! 知恵袋)に記載されています。JR側は、割引のための原資を、旅客からの収入(=JRの利益)ではなく、国が負担するように主張しています。

精神障害者にたいする割引等がない理由をJR東日本に問い合わせました... - Yahoo!知恵袋
精神障害者にたいする割引等がない理由をJR東日本に問い合わせましたところ、以下の回答が寄せられました。彼らは公助が福祉の全てであり、個人になんの義務も責任もない。と言っています。幅広く意見を募集します 以下原...

それに対する国の反応は、次の通りです。

しかしながら、精神障害者への割引適用及び身体障害者割引の距離制限撤廃等について多くの要望が寄せられており、今後とも引き続き、理解と協力をお願いしたい。

(引用元:http://www.mlit.go.jp/common/000190702.pdf)

このやり取りを単純にみている限り、国(国土交通省)のやる気のなさ、そして、国と交通事業者の負担のなすり合いを感じてしまいます。

推進のための課題 ~「協力」ベースでいいのか ~

鉄道会社の場合、線路の立体交差化や、駅や車両のバリアフリー化に国や地方自治体から多額の補助金が出ている一方で、障害者に対する運賃の福祉割引について交通事業者側の金銭負担で行わされることは、やらされ感があって、腑に落ちないでしょう。(つまり、運賃の福祉割引についても、国や自治体からの補助金がもらえない限りやりたくないということ。)

鉄道会社は国土交通省や地方の運輸局に監督されている立場にあるので、国が福祉割引を強力に推進しようとすれば、権力を行使しての実現が可能なはずです。筆者がここで言いたいことは、政府や(与党)国会議員の福祉割引に対する認識が薄くて、やる気がないということです。

「協力」ベースに起因する交通機関の現場での混乱をなくすためには、国において福祉割引の制度や細則を整備して鉄道会社に展開すること、そして三障害の手帳の様式を統一することが欠かせません(三障害の法律の統一にもつながります)。

障害者権利条約でも、障害者の移動の自由(手頃な運賃水準での移動)が規定されていて、それによって障害者差別解消法が施行されている現在、すべての障害者に交通割引を提供するのは、(法的な)トレンドであるといえるのではないでしょうか。

大事なのは、その割引制度の設計と展開方法で、現状の交通事業者任せのやり方を改めて、国が一元的に制度設計を再構築すべきなのです(できれば立法化が望ましいと考えます)。

国がこの問題を放置する限りは、割引を提供する交通事業者、割引を受けられるべき障害当事者やその家族(会)双方が苦しむだけです。

現に、精神障害者の家族会が署名活動を展開して、地方議会で意見書を多数可決させても、結局は政府や国会議員が動かなければどうにもならない、つまりは政治問題なのです。(もし、JRグループなどの交通事業者と政府・政治家が癒着していて、割引制度を阻止しようとしているのならば、なかなか実現されにくいと思われますが。)

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2つの大きな考え方とその違い

【国の福祉施策として位置づける場合】

根拠ある立法による、確固たる制度としての運用が考えられます。

これは、JR各社の言い分通りの制度設計となります。割引原資は国の負担=税金からの拠出となるため、財源の確保が必要です。つまりは、広く社会の負担となりますが、コロナ補償問題など多くの優先的な課題があって、福祉割引のための財源確保はもはや困難でしょう。

鉄道会社等交通事業者にとっては割引原資の負担がないため、潜在的な利用者増=純粋な収入増というおいしい果実を味わうことにもなります(特に長距離運送を担うJR各社は、純粋に利益増を味わえるでしょう)。

【交通事業者の社会的責任・貢献として位置づける場合】

現行の「協力」と「要請」ベースの強制力のない弱い方式です。政府の通達程度でも確かに可能なのでしょうが、本来は政府主導の統一的な制度となることが望ましいです。

この場合、原資負担は交通事業者側になります(乗客からの収入が原資となります)。これも社会の負担であることには違いなく、乗客の負担感は否めません。特にJRにあっては、利益がその分減少するので、強く抵抗しているのだと思います。

難しくなってしまったかもしれませんが、政府や地方自治体からの助成金、補助金投入などの施策で割引制度運用のハードルを低くすることが有効ではないかと考えています。

交通事業者にとっては痛みのある方法には違いないのですが、その取り組みが期待されているのだと考えます。その取り組みによって、いくらかでも利用者増を期待するということになります。

筆者的には交通事業者の自発的な推進を期待

筆者個人的には、後者の考え方で、(公的補助・助成の下で)交通事業者が自発的に推進してほしいと考えます。なぜならば、その原資となりうる税金は、他の福祉施策などの財源として使える貴重なリソースだからです。

今後、移動需要自体の減少によって、交通事業者の経営がますます厳しくなっていくことが考えられます。交通事業者が割引原資を負担するのが厳しいですが、それでも推進させることが必要と考えます。

どちらにせよ、国の強力なイニシアチブと交通事業者への強力な指導が欠かせません。

通院や福祉施設に通所するのには交通機関の利用が欠かせませんが、低収入・無収入であることが多い障害者が、そのための交通費を健常者並みに負担することは至難の業です。つまり、社会参加が厳しいわけです。

もし交通運賃の割引が実現されれば、交通機関を利用しやすくなり、社会が望むように障害者の社会参加や就労が可能になって、その社会コストがトータルで減少に向かうことに違いありません。

ましてや、2020年のコロナ騒動に端を発するアフターコロナの社会情勢では、一国の存立自体が問題になるでしょう。国や地方自治体からの補助も厳しくなるかもしれません。だからこそ、交通事業者の自発的な推進が、SDGsの観点での社会の持続的な維持をもサポートすることになります。

「協力」要請がお得意な日本政府

2020年春に顕在化したコロナ騒動。

その時、政府は飲食店や小売店舗を中心に営業の「自粛」を「協力」してほしいと表明しました。しかし、そのための休業補償は行わないと言って、事業者や国民の自己責任として泣かされたことは記憶に新しいでしょう。

国が国民に「協力」させること、そして本稿で扱っている運賃割引制度の整備においても、交通事業者が割引に「協力」することを、補償なしに自発的にやらせようとすることの根っこは同じかと思います。

その時、政府や自治体からの補償や助成があれば、痛みに「協力」することも可能だったでしょう。

運賃の福祉割引でもそうですし、コロナの補償でもそうですが、国民や事業者への「協力」要請に頼ることは、国や政治家の職務怠慢であり、責任回避です。交通運賃の割引を通して、障害者をどのように社会参加させるかという本稿の内容については、国民が選挙で意思表示して、政治家に推進させるしかないと思うのです。

読者の皆さまは、どのように思われますか?

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