2017年5月30日付で、厚生労働省から法定雇用率(障害者雇用率)の引き上げの発表がなされたようだ。発表から時期が若干遅れたが、本ブログでもこのニュースを取り上げてみたい。
(アイキャッチ画像出所:ぱくたそ)
法定雇用率とは、官公署や民間企業等が障害者を雇用しなければならない義務割合のことで、健常者を含めた全体の労働者数(失業者を含む)のうちの、一定以上の割合の、障害者手帳を保持する労働者(同じく失業者を含む)を雇用しなければならない制度である。
具体的には、従業員数50人以上を雇用している会社には、その従業員数の一定割合(執筆時現在2.0%)以上の障害者手帳を持つ人を雇用しなければならない義務である。
例えば、従業員数100人の会社には、2人以上の障害者の雇用が義務である。
そのペナルティとしては、雇用義務を満たせない場合の納付金制度(不足1人当たり50,000円)およびハローワークからの行政指導の対象=社名の公開がある。
コンプライアンスに厳しい現在の社会にあっては、義務を満たせない、あるいは満たそうとしない会社が、社名を公開されることがどれだけリスクであることは、容易に理解できるだろう。
そんな障害者雇用の実行水準が、来年度(平成30(2018)年度)から変更されるというのが今回のニュースの内容である。
厚生労働省の発表内容・障害者雇用制度の説明
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000166129.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html
【現状】
民間企業の法定雇用率=2.0%(平成25年度からの水準)
【変更内容】
– 民間企業における法定雇用率引き上げ
平成30(2018)年4月1日より:2.2%
平成33(2021)年4月までに:2.3%
– 法定雇用率の算定基礎の見直し
身体障害者・知的障害者に加えて、精神障害者が対象に追加される
※ 現状でも精神障害者をカウントできるが、平成30年度からは、カウントしなければならない、という状態になる。
このように、障害者雇用率が上昇となるため、例えば従業員数10,000人の会社を考えると、現状200人の雇用義務(身体・知的)があるところから、来春には220人の雇用義務(身体・知的・精神)に上昇し、当該企業にとっては来年度までの半年程度の期間で20人雇用を増加しなければならないという厳しい話である。
ここでミソなのが、この例の場合、220人全員身体障害者で充足できれば、知的や精神障害者を新規に雇用する必要がないという点である。
したがって、超人気企業で身体障害者が集まるような会社であれば、精神障害者の雇用を考慮する必要があまりないということが言えるかと思う。
問題なのが、身体障害者だけで法定雇用率を充足できない会社である。
超人気会社でなくても、千人単位の従業員数がある会社は数多くあるのだが、戦力になり安定勤務ができる障害者を何人も新規雇用するというのは安易な話ではなく、企業にとっては頭が痛い話に違いない。
このような普通の企業にとって、身体障害者の枯渇している状況においては、精神障害者の囲い込みが喫緊の課題なわけであって、受け入れ態勢の整備を行ったうえでの、(特に精神障害者の)人材獲得競争が激しく行われているはずである。
そんなわけで、職務経験があり安定勤務さえできる人材であれば、とくに(軽い程度の)精神障害者にとっては、障害者雇用においては現在売り手市場であるはずである。
その他にもからくりというか、別の問題点が考えられる。
既存の健常だった社員が中途で(精神)障害者手帳を取得した場合、その従業員のことを障害者雇用に転換すれば、実は新規に(精神)障害者の雇用をしなくてもいいという話である。
こんな話があるために、大企業のすべてが大っぴらに障害者の採用活動を行っているわけではないことが言える。
障害者手帳を持つ人には吉報なのであるが、積極的に障害者を活用しようという企業はいまだ少数派だと考える。
筆者個人的には、ノーマライゼーションの考え方が明確とした、障害者の活用に積極的な企業に在籍していたい。