障害者の雇用状況が、毎年12月中旬に厚生労働省から発表されるが、今年2017年も先日発表されたので、このタイミングで本ブログでも考察してみたい。
むろん、本稿では精神障害者の視点から状況がどうなっているのかを切り込んでいきたい。本稿では、民間企業の状況に絞ってお話ししたい。
目次
障害者雇用の状況(2017年)
12月中旬に発表される結果の元になるのは、毎年6月1日に企業や官公署から報告されるデータを集計したものである(6月1日現在の数値なので、いわゆるロクイチ報告)。
2017年の状況としては、ここ2、3年の状況と大きく変化はない。
雇用障害者数などが過去最高で、法定雇用率達成企業が初めて50%の大台にのったことだろうか。
精神障害者の被雇用者数も過去最高で、これも50,000人分の大台にのったという状況である。(実数が50,000人ではなく、カウントが50,000人分)
対前年の比較では、119.08%で、大変伸びている。
精神障害者の雇用はようやく緒についたところで、これから人材の獲得競争が激化するのだと考えられる。(これから精神の雇用を考えるという企業も多いが、少しスタートダッシュが遅いように見受ける。)
法定雇用率が達成している企業の割合は、これまたちょうど50%の大台にのった。
そんなわけで、全体の状況もスモールステップを歩んでいると言える。
特例子会社で雇用されている障害者の数は29,769人で、そのうち精神障害者は3,667人である。
三障害別の割合
こんな状況だが、障害種別での状況はいかなるものだと、精神障害者の状況にフォーカスして考察していくことにしたい。
まずは、2014年時点での障害者手帳保持者の推計数である。
以下の表とグラフでわかりやすく表現したつもりである。
構成割合でいうと、精神障害者が全体に占める割合は、約57%と、想像以上に多い。身体障害者は約31%で、知的障害者は、残りの約11%である。
また、目立つ点が、精神障害者に関しては、総数の中で生産年齢人口(ここでは20-64歳)が、50%強であることである。本来ならば働き盛りの世代の人々が多く含まれていることになる。
【障害者総数】(単位:千人)
2014年 | 総数 | 生産年齢 | 割合 |
身体 | 3,937 | 1,110 | 31.35% |
精神 | 3,924 | 2,023 | 57.13% |
知的 | 2,023 | 408 | 11.52% |
合計 | 8,602 | 3,541 | 100.00% |
(出所:総務省 平成28年度障害者白書 参考資料 障害者の状況 http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h28hakusho/zenbun/siryo_02.html)
次は、2017年時点での三障害別の就労者数である。
ロクイチ報告の結果なので、すべて障害者手帳の所持をオープンにしている人のカウント数であり、クローズドで就労している人を含まない。
構成割合でいうと、身体障害者が約66%で、全体の3分の2を占めている。知的障害者は、約22%で、残りの約10%が精神障害者である。この数字を見ると、障害者雇用の中心層は、いまだに身体障害者ということが言える。
この内精神障害者のカウント数は50,047.5で、初めて50,000の大台に乗っている。このうち、週30時間以上就労している人数が41,422人、週20時間以上30時間未満就労している短時間労働者は17,251人である。実際の短時間労働者の人数は17,251人でありながら、カウントは0.5になるので、合計のカウント数が50,047.5となるわけである。つまり、労働者数の実数自体は58,673人となり、実際に就労している人数はカウント数よりも多い。
精神障害者の総数が多い一方で、就労できている精神障害者の割合が非常に少なく、活躍の場がいかに存在しないかと言える。
【就労者数(カウント数)】(単位:人)
就労者数 | 2016 | 2017 | 割合 |
身体 | 327,600 | 333,454 | 66.98% |
精神 | 42,028 | 50,047 | 10.05% |
知的 | 104,746 | 112,293 | 22.56% |
合計 | 476,390 | 497,811 | 100.00% |
(出所:厚生労働省 平成29年 障害者雇用状況の集計結果 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000187661.html)
最後は、対前年比の人数の伸び率である。
2016年と2017年時点の数字を以下に載せたが、身体障害者の伸び率は102%(2016年)と101%(2017年)であり、伸びがほとんど頭打ちであることが分かる。また、知的障害者についてはいずれも107%で、こちらも数では頭打ちの状態である。
一方で、精神障害者に関しては、2016年は121%、2017年は119%と、前年のおよそ20%増となっていて、就労者数が増えている状況である。
【対前年比の伸び率】(単位:%)
対前年比 | 2015/16 | 2016/17 |
身体 | 102.13% | 101.79% |
精神 | 121.34% | 119.08% |
知的 | 107.16% | 107.21% |
(出所:厚生労働省 平成29年 障害者雇用状況の集計結果 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000187661.html)
この結果を筆者の視点で考察する
また、企業規模でみると、精神障害者のカウント総数50,047.5のうち、従業員数1,000人以上の企業でのカウントが24,480.0(うち週30時間以上21,709人)と最大で、週30時間以上労働する割合が高い。
なお、従業員数50-100人の企業では、総カウント数が4,983.5で、うち週30時間以上のカウントが3,044、短時間労働者のカウントが3,879(7,758人)であり、短時間労働者の割合が高い。
大企業ほど週労働時間が多い傾向にあり、短時間労働者は中小企業に多めなことが考察できる。
精神障害者の就労が多い業種は、製造業、卸売・小売業、医療・福祉、サービス業などで、身体障害者に対する精神障害者の割合が少ない業種は、建設業、エネルギー業界、運輸業、金融・不動産業などである。
このことから、人数・割合とも多いのがサービス業や卸売・小売業で、精神障害者が就労する業界として注目できるところである。逆に、割合の少ない業界には、現状では精神障害者が切り込むのは厳しいともいえる。
全体の障害者数に比して、精神障害者の就労者数が依然として著しく少ないことがとって分かる。精神障害者に対する社会での活躍の場所が現状少ないため、もっと発掘されてもいいはずである。
一方で、症状的に就労が難しいにもかかわらず、行政からの福祉支援が得にくくなるようなことがあったら、無理にでも働けという状況にもなり、それはそれで危惧する事態である。
今後の法定雇用率の上昇(2018年度から民間企業2.2%)と、この調査における上記の結果から、身体障害者の新規発掘は簡単な事ではないことが分かる。したがって、企業にとってはたとえ本意ではなくとも、精神障害者の雇用に進まらざるを得ない状況になりつつあると考える。
身体障害者に比べ、精神障害者の障害特性は個々に異なることが多いので、活用することは容易なことではない。しかし、時短勤務や環境調整などの配慮を通して、多様な人々が活躍できるように推進されていくかたちになるかと思う。
精神障がいの当事者にとっては、売り手市場には違いない状況である。就職準備性を高めることができれば、就労のチャンスが広がっているといえる。