障害者雇用における正規雇用(正社員就労)を考える

就労支援
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筆者は、障害者雇用(障がい開示)で東証一部の大手企業で就労した経験が2社あります。本稿執筆時現在では障がい開示での転職経験が1回あり、現在は2社目になります。その1社目(前職)の契約社員としての勤続期間が2年3か月、2社目(現職)の契約社員(嘱託)としては、ちょうど1年間になります。

そのいずれの会社でも、入社条件は正社員ではなく、契約社員(嘱託)でした。そして、1社目でも正社員への登用が見え隠れしていましたが、結局登用が叶わずに2社目の会社に転職したわけです。現在勤務している会社でも正社員登用実績はあるとのことですが、ハードルが高いと思われ、正規雇用が叶うかどうか怪しいところです。

本稿では、障がいを開示して障害者雇用で再就職した場合の、非正規から正規雇用に転換できる要件や可能性について考えてみたいと思います。

目次

正規雇用と非正規雇用の主な違い

現在、多くの企業では、障がいの有無に関係なく、管理職などのコアな業務を担う社員や新卒で採用された社員が正規雇用として正社員で就労し、定型業務などのノンコア業務を担うような、その他の位置にある社員は非正規雇用で就労することが一般的ではないかと思います。

特に精神障害者であって、先天性ではなく中途障害である場合は、一般就労の経験がある場合が多く、業務スキルやビジネスマナーを習得しています。そのため、障がいを開示しないで(クローズドで)就労する場合、健常者としてのの正規就労をこなすことが可能だと思われますが、成功・失敗はすべて自己責任に帰するところになります。

正規雇用で就労する場合と非正規雇用で就労する場合の主な違いは、以下のようになろうかと思います。

● 賞与の有無
正規雇用では支給されるが、非正規雇用では支給されない(ただし、正規雇用だからといって支給される保証はない)。

● 退職金の有無
正規雇用では支給されるが、非正規雇用では支給されない(ただし、正規雇用だからといって支給される保証はない)。

● 基本給以外の諸手当の違い
支給される金額・支給の有無が正規・非正規によって異なる。

● 有給休暇や特別休暇の日数の違い
非正規雇用に対して付与される日数が正規雇用よりも少ない。

● 福利厚生の利用に関する条件の違い
社員食堂や更衣室が正規雇用では利用できるが、非正規雇用では利用できない。

働き方改革に伴う2020年4月の「パートタイム・有期雇用労働法」の施行で、上記項目のうち下の3つについては是正されました。手当が正社員同様に支給されたり、休暇日数が同一の日数が付与されるようになったり、福利厚生制度を利用できるようになったりの恩恵を、非正規で就労する人たちも浴せるようになりました(もっとも、正社員と全く同じ金額や日数が保証されているわけではなく、役割期待に応じて正社員に多くを、非正社員に少なくを支給・付与されることは、現在のところ違法ではないです)。

筆者が執筆現在嘱託として勤務している会社でも、年次有給休暇の日数は正社員と同一になったものの、依然として退職金は支給されず、賞与や住宅補給金でも正社員と差をつけられ、低い金額となっています。

つまり、職責や役割の軽重で待遇が決まるということになります(このことを、パートタイム・有期雇用労働法では、「職務分析」「職務評価」を実施することにより、正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者の基本給などの労働条件に関する均等・均衡待遇を行う、と表現しています)。

障害者雇用では、正規雇用の義務はない

障害者雇用が近年増加していますが、「正規雇用しなければならない」と定められているわけではありません。意外に認識されていないトリックですが、そのために障害者雇用の大半の雇用形態は、契約社員などの非正規雇用ということになります。

非正規雇用の契約社員の中から安定就労が可能で、業務でも実績を上げた優秀な人だけを正社員に登用していくのが一般的ですが、双方の役割期待の大きな違いからか、筆者もその壁の高さを実感しています。

障害者雇用における選考上の検討事項

一般的に、障害者雇用で人材を採用にする際に検討する主な項目として、志望動機やスキルや能力以外の事項は、以下の通りだと考えます。

● 障がいの種別・部位
上下肢・視覚・聴覚などの身体の障がいと知的・精神障がいでは、配慮事項も全く異なるし、「障害者といえば身体・知的」「精神障害は障がいではなく病気」といった偏見が存在するかと思います。

● 就労にあたっての配慮事項
身体障がいにみられるようなハード面の設備を整備すれば健常者と同じパフォーマンスが期待されることは、知的障がいや精神障がいに必要な就労上の配慮とは異なります。就労時間や人的環境などのソフト面の配慮が必要となる知的・精神障害者には選考上不利になってしまいます。

● 安定就労できるかどうか
特に精神疾患をもった障害者の場合問題にされ、すぐに辞めざるを得なくなってしまうと懸念されると採用されにくくなると思われます。就労準備性のピラミッドにおける段階を踏んだ就職活動が望ましいことになります。

● 転職回数、前職の雇用形態
障がいの有無に関係なく、転職回数の多寡は就転職の要の部分で、回数が多いとすぐ辞めるのかと疑念を抱かれて、正規雇用の妨げになると考えます。また、前職が正規雇用ならば正規雇用で、非正規雇用であれば非正規雇用での条件提示になると思われるゆえ、非正規雇用から正規雇用への条件アップ転職はなかなか厳しいと考えます。

● 障がい開示での再就職か障がい非開示からの転向か
障がいによって一度退職し、社会の一線を退いてから再就職して社会復帰を図るのか、社会の一線から離脱することなく障害者雇用による就労に転向するかによって、企業の見方は違うかと思います。

以上の内容を考察すると、どうしても身体障害者が正規雇用で就労できる可能性が高くなり、知的障害者以外にも精神障害者が(障がい開示の下では)正規雇用に転換できる可能性が狭まることが言えます。つまり、長く勤務しても、特に精神障害者や知的障害者は正社員に登用されるとは限らないということです。

障害者雇用における正規雇用の割合は、身体障害者は約6割、知的障害者は約2割、精神障害者は約4割と言われている事実がそのことを物語っていますね。

正規雇用に転換できる可能性は

特に精神障害者にとって困難な状況な正規雇用への転換ですが、どのようにすれば正社員登用されるのでしょうか。その可能性を探ってみたいと思います。

健常者の一般雇用の場合、職務経験が薄くても契約社員として経験を積んでから正規雇用を狙い、ステップアップすることも十分可能ですが、それは障害者雇用にも言えることでしょうか。

契約社員の正社員登用制度は、雇う側の企業にとってはミスマッチが少なく、新規に採用するのと比べリスクが低いメリットがあります。特に、特性がさまざまである障害者を長期にわたって雇用する必要があるので、この制度を活用する意義は十分にあります。

一方で、働く側の労働者にとっても、正社員を狙うために転職する必要がなく、同じ会社で経験を積めることから負担が少ないということが言え、双方にとってメリットがあるはずです(もっとも、筆者はひそかに正社員登用を狙って他の会社に転職したわけですが)。

転換の可能性は、マッチするかしないかにもかかわるので、障害者雇用いかんには関係ないと考えます。ご縁があるかないかということではないでしょうか。

非正規雇用と正規雇用では期待される役割が異なることから、正規雇用を狙う場合はその役割をこなせるかを検討する必要があります(障害者が健常者と同じかそれ以上の役割をこなせるか?)。雇用の安定性という観点で言うならば、国が考えるような正規・非正規で区分するのではなく、無期雇用を保証することで解決するのが善であると考えます。

それでも正規雇用にこだわる必要はあるのか

非正規雇用で就労する当事者は、語弊がありますが「ぶら下った人参にかぶりつこうとする馬」で、正規転換をちらつかされて馬車馬のように働いてパフォーマンスを上げなければ正規雇用を勝ち取れないということになります。残酷な現状です。

果たしてそんな思いをしてまで正規雇用に固執する必要はあるのでしょうか。有期雇用で5年間を超えて契約を更新する場合、労働者から申し出れば無期雇用に転換できるという法律があり、企業側には応じる義務が法的にはあります(実際はその直前に雇い止めする可能性も考えられますが)。

筆者は、正規雇用以外にも「無期非正規雇用」の可能性も考えられるのではないかと考えられます。過剰な役割期待を求められて自身のキャパを超えて働き、体を壊して再び退職する、という悪循環を断ち切るには受け入れざるをいけないとも考えます。

国は、無期雇用は正規雇用しかありえないとして、企業に正規雇用を迫りますが、無期雇用であれば、たとえ非正規でも長い期間、安定的な職を得られることにもつながります。したがって、正規雇用、無期非正規雇用と多様な働き方があってもよいと思うのです。「障害者雇用も、多様な働き方のうちの一つ」と考えられる世の中になってほしいものです。

参考資料 References

【生活支援員監修】狭き門?障害者で正社員になる最短ルート
障害者雇用での就職を考えている方、こんな話を聞いたことありませんか。「民間企業は、障害者を一定数雇用しないといけない。
パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために
パートタイム・有期雇用労働法とは、正社員とパートタイム労働者、有期雇用労働者との不合理な待遇差を禁止するなど、パート・アルバイト・契約社員として働く方の環境を良くするための法律です。
契約社員から正社員になるには?社員登用制度、無期雇用転換制度、メリットデメリットなどを解説 │#タウンワークマガジン
「契約社員から正社員になりたい」という人の中には、今の会社で正社員登用のチャンスを考えている人もいると思います。ここでは契約社員から正社員への登用制度や、契約社員のまま無期雇用になる制度のことを解説します。【タウンワーク】はアルバイト・バイト・社員・パート・派遣の仕事/求人を探しを応援します
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