毎年6月1日現在の民間企業・行政機関における障害者雇用状況の集計結果(いわゆるロクイチ集計)が毎年12月に公表されますが、2020年分の集計結果については、年明けの2021年1月になって公表されました。
本ブログでは、この障害者雇用状況の集計結果を毎年取り上げて、障害者雇用で就労している筆者なりに考察しています。今回も例によって現況を見た上で、精神・発達障害者視点でのトレンドをみていきたいと思います(本稿における「精神障害者」には、発達障害者を含みます)。
本稿で取り上げる2020年6月1日現在の状況は従前とは異なり、コロナ禍で経済や採用活動が停止した中でのものです。今回の集計結果では、従来と異なる傾向が見られるかと思いましたが、障害者雇用に関してマイナスとなる影響は特に見られませんでした。
これまでのオフィスワークからテレワーク(在宅勤務)に勤務実態が変わって、働き方そのものが変化している中で、従前はオフィスにおいて専ら定型業務を担当していた障害者の働き方がどのような影響を受けるかということも、本稿で考察します。
2020年の障害者雇用状況の集計結果~精神障害者~
障害者雇用における法定雇用率は、民間企業と公的機関の双方に適用されますが、本稿では民間企業を対象に考察を行いたいと思います。集計日現在の民間企業における法定雇用率は2.2%です。
フルタイム就労者とパートタイム就労者を合わせた障害者雇用での就労者のカウント総数は578,292です(実就労者数は479,989人)。1年前(2019年)の就労者カウントの総数が560,608であり、障害者雇用全体の就労者数では前年比3.2%増加しています。
その中で精神障害者については、2020年が88,016カウント、2019年が78,092カウントで、前年比12.7%増です。特に身体障害者の就労者数が横ばいな状況で、精神障害者の就労者数の増加度合いが良い意味で目立ちます。
※ 障害者雇用の集計には「人」だけではなく「カウント」も使われます。重度の障害者数のダブルカウントや短時間労働者の0.5人単位でのカウントがあるので、厳密には何人ではなく、0.5人単位で何カウントかで結果が表示されます。

法定雇用率が1.8%から2.0%に上昇した2012年からの就労者数の増加が著しく、特に法定雇用率が2.0%から2.2%に再び上昇した2018年以降も、増加の勢いが止まらない状況です。2012年における精神障害者の就労者数が、16,607カウントから2020年の88,016カウントへと、8年間で約5.3倍に跳ね上がっています。2021年3月には、法定雇用率がさらに2.3%に増加することになっています。そのため、数で頭打ちの生産年齢層の身体障害者を確保する難しさから、精神障害者の就労者数はさらに増加するものと考えられます。
三障害の内訳は、身体障害者が356,069カウント(全体の61.6%)、知的障害者が134,207カウント(全体の23.2%)、そして精神障害者が88,016カウント(全体の15.2%)です。全体に占める精神障害者の割合はまだ多くないとは言え、就労者数全体が大きく増加している中で、存在感を増してきていると言えます。

実雇用率を業種別に見てみると、特に医療・福祉が2.78%と、全体の率を大きく引き離しています。集計には明記されていませんが、この中には就労継続支援A型が含まれているものと思われます。
企業規模別に見ると、精神障害者に関しては、従業員数1,000人以上の大企業における就労者数割合が48.1%と、全体の半数弱を占めています。障害者雇用のカウント対象となる当事者が大企業に流れて、中小企業での確保が難しいことがうかがえますし、中小企業での受け入れ態勢自体が十分でないことも言えましょう。
実際、金融保険業や不動産業、運輸業においても、ここ最近では(身体障害者以外にも)精神障害者であっても、従前ではありえなかった雇用実績が生まれてきているようです。生産年齢層の身体障害者の数が頭打ちであることから、障害者雇用の市場において身体障害者は奪い合いの状態で、大企業であっても就労可能な精神障害者の雇用なくしては法定雇用率の達成のめどが立たないということでしょう。
その現われとして、障害者を雇用していない(就労者数がゼロである)会社の数が、1,000人以上の大企業ではわずか1社なのに対し、100人未満の中小企業では30,542社と多くを占めています。(同規模の中小企業で、法定雇用率を満たしている会社数は、全体の約4分の1です。)

障害者雇用における特例子会社の社数は、2020年現在で542社で、就労者数の総数は38,918カウントです。障害者雇用の総数578,292カウントに対する特例子会社就労者数の割合は6.7%で、特例子会社がメジャーになってきた割には、実際の就労者数は少ないことが分かります。障害種別で見ると、身体11,573カウント、知的20,552カウント(全体の半数強)、精神6,793カウントであり、知的・精神障害者が就労する割合が比較的高いです。
障害者雇用の法定雇用率がさらに上昇
本記事の執筆時点で、民間企業において2.2%の法定雇用率が、2021年3月1日にもう0.1%上昇し、2.3%に引き上げられることが決まっています。当初の予定では2021年1月1日から引き上げされる予定だったものが、コロナ禍の影響があってか2か月後倒しになって、3月1日からとなった模様です。
従前、企業規模で45.5人以上の会社で必要だった障害者の雇用が、43.5人以上の会社でも必要となり、中小企業でも障害者雇用に取り組むことが一層求められることになりました。
この法定雇用率の引き上げに当たって、厚生労働省でも議論が継続的に行われたようです。使用者側(=経営者側)、労働者側、障害者側、公益側の四者が、それぞれの立場で意見を出しています。
使用者側としては、コロナ禍で事業環境が悪くなった上、テレワークへの移行で従来障害者が担当していたオフィスでの業務が減少し、障害者雇用の見直しが必要になったことから、できるだけ引き上げを延期してほしい(もしくは見送る)という意見だったようです。
一方、労働者側としては、障害者がテレワークできる業務が少なく、またテレワークでオフィスでの業務が減少したため、障害者にとって少なくなった業務の切り出しを使用者側に求めています。
障害者側からは、これを機会に障害者でもできるテレワークの業務を増やすことや、働き甲斐のある仕事を作り出してほしいという要望が上がったようです。
公益側からは、障害者雇用はこれまで景気に左右されなかったので、法定雇用率の引き上げに影響があるべきではないという話、法定雇用率を引き上げなかったら障害者雇用に対するイメージが良くなくなるという話があったようです。
いろいろな立場から要望があった中で、若干の時期の後倒しがあったものの、概ね既定路線で法定雇用率の引き上げが行われることになったことは、障がいを持つ当事者の立場からは歓迎したい結果です。
コロナ禍での障害者雇用の筆者の展望
筆者も障害者雇用で一般企業で就労する立場ですが、コロナ禍をきっかけにオフィスに出社して業務を行う形から、在宅で業務を行うスタイルに変わりました。
実際、プログラミングやデザイン、データ入力・加工といったPCを使用する業務では、必ずしもオフィスに出社する必要がなく、遠隔でも業務の成果を上げることができます。
障がい特性や精神疾患の治療などの理由で、多くの回数にわたって離職することを余儀なくされた、特に中高年の精神障害者にとって、一般の労働市場(クローズド就労)では相手にされなくても、障害者雇用の市場で社会復帰を果たすことは十分可能です。筆者の主観ですが、転職回数などのこれまでの履歴のために再就労に困難を感じている当事者、特に45歳以上の中高年の精神障害者は、障がいをオープンにして障害者雇用で就労することをお勧めします。
障がいの有無に関係なく、テレワークには感染症に罹患するリスクが減らせるという直接的なメリットがあるだけではなく、通勤しないことによる時間とコストが削減できること、働き方の多様性をもたらすことも大きなメリットです。さらに障がいを持つ当事者にとっては、オフィスにおける設備の配慮が不要になったり、職場での不要な人間関係を構築する必要がなく、精神的負荷を軽減できたりすることがメリットとして追加されるかと思います。
従来の障害者雇用では、オフィスにおける単純な定型的な庶務業務を障害者が担当することが多かったと思われます。コロナ禍で、働き方がオフィスワークからテレワークに移行する中で、従前人手による業務が機械やシステムに置き換えられ、自動化されています。そのため業務が消滅したり、郵便物のハンドリングなどオフィスでの庶務業務自体が消滅することなど、障害者雇用にあって業務面では逆風が吹いているのも事実です。
一般の労働市場とは異なり、事業環境が大きく変化している中でも、障害者雇用の市場においては、法定雇用率制度が存在する限り、景気変動に関係なく一定数の雇用が確保されることになります。したがって、障害者雇用ではない一般枠の就労は大きく変化する可能性が高いですが、障害者雇用の雇用市場は良い意味で特殊で、今後も当事者、支援者(福祉事業者を含めて)双方にとって堅調だと考えます。実際、ある航空会社が一般枠の採用を見合わせる一方で、障害者枠の採用は引き続き行うことになっているようです。
したがって、障害者手帳を所持して障害者雇用での就労を目指す当事者にとっては、就労環境についてはそれほど不安に感じることなく、職業準備性と業務スキルを淡々と高めることが大事かと思います。ただし、障害者雇用における職種が従来の単純な定型的オフィスワークから、専門スキルが必要なテレワークに変わる可能性は十分あり得ます。単純・定型的業務という障害者雇用の固定観念にとらわれることなく、時代の変化に柔軟に対応できる当事者の力と支援者の支援に、障害者雇用の今後がかかっているかと思います。
今回、障害者雇用の法定雇用率が2.3%と引き上げられますが、企業にとっても2.3%に達したから障害者の採用はこれでおしまい、ということはありません。各企業や行政機関には、社会連帯や企業の社会的責任の観点で、法定雇用率を超えた障害者の採用を継続してほしいと思います。(ところで、常勤国家公務員の障害者枠採用選考が最近行われていないようですが、国が率先して行うべきではありませんか。)
参考資料 References
令和2年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)2021
2021年3月1日から障害者の法定雇用率が引き上げになります(ハローワーク墨田)2021
第98回労働政策審議会障害者雇用分科会(議事録)(厚生労働省)2020