2021年10月になり、まるまる4年ぶりに衆議院選挙が行われるタイミングになりました。
精神障害者保健福祉手帳を所持して障害者雇用にて一般就労している筆者としても、来たる総選挙の結果には大いに関心があります。特に精神障害者に係わる障害者福祉について支援の不十分さを常々感じてきた筆者としては、各政党の障害者福祉に係わる政策には非常に関心を持っています。
本稿では、2021年の総選挙が公示されたこのタイミングで、主要政党7党の精神障害者福祉に関する政策を、当該政党の公式ウェブサイトの政策集より抜粋して引用し、障害者雇用および公共交通機関における福祉割引を含む精神障害者福祉に関してどのような政治的スタンスを持っているかを考察したいと思います。
本稿に記載した筆者のコメントはあくまでも個人的な考えであり、当該政党の見解ではないことをご留意ください。
※ 社民党およびNHK党については、精神障害者福祉に関する包括的な政策が見られなかったため、本稿では比較の対象外としました。
目次
自由民主党
【政策】
● 高齢者、女性、障害者を含め、だれもが自らが望む形で働ける社会を目指します。
● 障害のある方の就労機会を増やすために、職業紹介の推進とともに、コロナ禍で赤字になっている「就労系障害福祉事業所」への支援を行います。
● 高齢の方や障害のある方の家庭ごみの個別回収支援に使える「特別交付税」の活用を促進します。
【筆者のコメント】
障害者福祉に関しては特筆すべき政策はなく、障害者の就労に関する2,3の政策が掲げられているのみです。働けない程度の精神障害者に対する生活支援体制についてのコミットメントはありません。
公明党
【政策】
● 共生社会の実現のために、改正障害者差別解消法の円滑な施行に取り組むとともに、障害者施策を見直ししつつ、必要に応じて、障害者基本法、障害者虐待防止法などの法制度の改正を行います。
● 障害者が安心し、生きがいを持って地域生活を送れるよう、グループホーム等の整備、在宅就労などの就労・定着支援、発達障害児・者の地域支援体制の強化に取り組みます。
● うつ病などの精神疾患について、メンタルヘルス・ファーストエイドの考え方を用いた普及啓発、AI を活用し自分で心の健康をチェックできる「KOKOROBO(ココロボ)」の活用、心の不調に悩む人を支える「心のサポーター(ここサポ)」の100万人養成など、職場・地域における早期発見・治療体制を強化するとともに、認知行動療法や適切な薬物療法の普及を促進します。
● 「障害者用ICカード」並びに「特急車両における車いす用フリースペース」の導入の早期実現に向けた検討等を加速化します。特に、関東圏における「障害者用ICカード」については、2022年度内に導入します。また、ウェブによる障害者用の鉄道等の乗車券や乗船券の予約・決済(マイナポータルとの連携を含む)を実現するとともに、鉄道運賃の精神障害者への割引の導入を促進します。
● 低年金者への福祉的な措置として、最大月額5,000円(年6万円)を支給する「年金生活者支援給付金」の実施状況等を踏まえ、さらなる拡充を検討するとともに、障害基礎年金の加算など所得保障の充実に向けた検討を進めます。
● 障害年金専用相談窓口を設置します。
【筆者のコメント】
現場レベルで既に実行されようとしている施策を追認する形の政策であり、党独自で考案された政策ではないと思われます。障害者施策における現状の問題点には深く切り込めていません。
日本維新の会
【政策】
● 分身ロボットなどのテクノロジー開発や、超短時間雇用の導入等の規制緩和を通じ、身体・知的・精神の障害種別にとらわれない障害者雇用率の向上を推進します。
● ポストコロナ時代における働き方に鑑み、健常者のみならず障害者就労についても通所だけでなくテレワーク(在宅就労)で行えるよう、就労系福祉サービスを活用できる制度とICT環境を整備します。
● 長時間の介助を受けられる「重度訪問介護」のサービスについては、経済活動中にも利用可能にする等、重度障害者が活躍できる環境を整備します。
【筆者のコメント】
党のスタンスが「自助」ベースの改革推進にあることから、障害者の就労を前提にした政策が2,3挙げられている程度です。ICT活用についてはいいところを突いていますが、対面でのマンツーマンの支援が必要な障害者が多いことがあまり考慮されていないように思えます。
国民民主党
【政策】
● 障害者差別解消法の実効性ある運用を目指します。
● 医療・介護・障害福祉等に関する社会保障サービスの自己負担の合計額について、所得に応じて上限を設ける総合合算制度を創設します。
● 既存の発想にとらわれず、障害者に対し、新たな社会参加・就労機会を提供します。
【筆者のコメント】
障害者福祉に関してあまりコミットメントがない印象です。政策の概要が2,3挙がっているのみで、どのような政治スタンスなのか考察できません。
立憲民主党
【政策】
● 医療・介護・障害福祉等に関する社会保障サービスの自己負担の合計額について、所得に応じて上限を設ける総合合算制度を創設します。
● 介護・保育・障害福祉等の複合施設である共生型福祉施設の整備促進を図ります。
● 精神疾患による患者やその家族への地域生活支援の強化等を充実させ、地域で自立した生活ができるよう、病院から地域への移行を促進します。移行に必要な生活支援のあり方については、当事者とともに議論しながら検討します。また、患者の尊厳を守るため、精神科病院での身体拘束の削減を進めます。
● 障害者の暮らしを支える制度を拡充します。介護保険優先原則の廃止、障害年金の引き上げなどを検討します。
● 障害者の公共交通運賃補助制度の拡充を図ります。
● 福祉的就労利用者の一般就労への移行を進めるため、現行の雇用率制度に基づく一般就労のあり方にさらなる検討を加え、すでに地方公共団体で導入事例のある多様な就労の場の創出や、尊厳ある生活を維持できる稼働所得の確保を目指します。
● 障害者がそれぞれの能力を発揮できるよう仕事を切り出すなど、障害者の雇用(国の行政機関および地方自治体を含む)を拡大し、定着支援を促進します。
● 既存の発想にとらわれず、障害者に対し、福祉と農業の連携など新たな社会参加・就労機会を提供します。
● 障害者雇用を促進する観点から、「障害者雇用納付金制度」のあり方を検討します。
● 大人の発達障害への対応(就労支援、ピアサポート等)を強化します。
【筆者のコメント】
障害者福祉に関する現実的な提言が、多数挙げられています。働ける人に対しては福祉的就労や障害者雇用(一般就労)、働けない人に対しては日常生活の支援と、過不足なくバランスの取れた政策であると考えます。
日本共産党
【政策】
● (障害福祉サービスの)応益負担はすみやかに廃止し、利用料は無料にします。当面、世帯収入にかかわらず、本人所得のみの収入認定とします。
● 現在のサービス支給量抑制のためのしくみから、障害者参加で区分認定の制度内容を協議し、支援の必要量や本人の希望が保障されるしくみに転換します。
● 支援が必要にもかかわらず福祉利用の対象からもれてしまう、または対象であるにもかかわらず適切な支援を受けることができない内部障害、発達障害、高次脳機能障害、難病・慢性疾患などのあらゆる障害者を、障害者基本法第2条1項の規定にもとづいて対象にします。
● 総合支援法第7条の介護保険優先原則はすみやかに廃止します。介護保険の対象年齢でも従来から受けていた支援を継続して受けられるようにして、障害者が障害者福祉制度と介護保険制度を選択できるようにします。
● 発達障害者も障害者手帳を取得しやすいよう制度を改善します。
● 障害年金は所得保障という観点から、支給額、認定基準、認定システムを抜本的に見直します。生活できる年金額まで引き上げるとともに、最低保障年金制度をすみやかに実現させて底上げをはかります。
● 障害年金センターに一元化された審査によって生じている、「同じ程度の障害でも障害年金が受給できない」「作業所の就労を理由に年金が打ち切られた」などの問題解決にとりくみます。
● 無年金障害者への特別障害給付制度について周知徹底を求めます。国は自らの不作為や年金制度の不備を認めて障害基礎年金と同額に引き上げるとともに、国籍要件のために加入できなかった在日外国人など、支給対象をさらに広げます。
● 最低賃金法第七条『最低賃金の減額の特例』(障害者除外規定)を廃止します。
● 障害者手帳のない難病・慢性疾患患者も法定雇用率や雇用の義務化の対象にします。
● 障害者が職場に定着できるように、企業に対して障害特性に関する知識や支援方法等が相談できる機関を設置します。定着支援を適切におこなうためにジョブコーチ(職場適応援助者)の増員を行います。
● 病状や障害が進行しても働き続けられるよう、有給での通院や病気休暇を保障します。
● ILO条約や障害者権利条約にもとづき、総合支援法にもとづく就労支援の事業所で働く障害者にも最低賃金を保障できるよう、補てんのしくみを導入します。
● 就労支援の事業所・作業所での利用料負担は廃止します。重度の人や利用日数の少ない人の就労をまもります。
● 精神科病院での身体拘束や、強制医療を解消します。
● 他の診療科に比べ医師や看護師の配置が少なくてよいとしている「精神科特例」を見直し、診療報酬を引き上げて医療体制を厚くします。
● 自立支援医療(通院公費)の低所得世帯のすみやかな無料を実施し、低所得世帯以外についても無料にします。
● 公共交通機関の料金割引制度の改善・拡充にとりくみます。とりわけ、精神障害者、てんかん、難病・慢性疾患などの障害者・患者を身体・知的障害と同等の運賃割引の対象にすることを求めます。
● 障害者手帳の「1種」「2種」の区分により扱いが違う運賃割引の適用を、付き添い者の有無や距離に関係なく割引されるよう求めます。
【筆者のコメント】
精神障害者に関する障害者福祉の現状の問題点が端的に多数挙げられており、課題点がよくわかります。障害福祉サービスや精神科医療、障害者雇用などの諸問題点についてよく検討されており、障害の当事者、支援者のニーズに即した政策であると考えます。
れいわ新選組
【政策】
● 障害者の日中活動の場(障害者総合支援法上の生活介護、自立訓練、就労継続支援等のサービス事業所)への支援を拡充します。
● 65歳以上の障害者に対する介護保険優先原則をなくし、希望する人は障害福祉サービスを受けられるように見直します。
● 箱物施設から地域サービスに人的・物的資源と予算を移し、期間を区切って計画的に施設入居者、精神科病院の社会的入院者を減らします。原則新規入居・入院は認めず、入居施設、精神科病院は地域サービスのバックアップ機能(緊急時の短期入所、本人のためのレスパイト等)に段階的に移行していきます。
● 障害者雇用促進法は雇用率未達成企業の存在を前提に成り立つ矛盾した制度であり、最近、特例子会社制度を悪用し、大企業の障害者雇用をまとめて肩代わりする民間企業も出てきています。雇用率達成ありきの障害者雇用促進法を抜本的に見直します。
● 雇用率制度の対象範囲を、障害者手帳を所持しない発達障害者、難病患者等に広げていきます。
● 障害者雇用における最低賃金減額措置を撤廃します。経営的に厳しい中小企業等に対しては国が賃金補填措置を取ります。
● 特例子会社から親会社へのキャリアアップを図る仕組みをつくっていきます。
● 「福祉的就労」(就労継続支援B型)の場で働く障害者(利用者)の現状改善のため、障害者のみを集めて訓練する仕組みでなく、障害者も健常者と同様に、最低賃金を保障し、社会的協同組合、社会的企業のような第3の働き方への支援を法制度化していきます。
● 自立支援医療について、低所得層への配慮をはじめとした負担軽減を図ります。
● 身体拘束・侵襲性の高い強制治療(薬物投与及び m-ECT)を禁止し、強制治療を受けた人を救済する方策を図ります。
● 無年金障害者に国としての救済措置を設けます。
● 障害者手帳保持者に公共交通機関の割引制度があるにもかかわらず、精神障害者だけは適用されていないので、差別的取り扱いをなくします。
● 公共交通機関において、オンラインでの予約から決済・乗車までをスムーズに行えるようなシステムの構築をします。
【筆者のコメント】
日本共産党の政策によく類似しながらも、障害当事者の生の声がそのまま政策として反映されているという印象を受けます。特に、障害者雇用の問題点や精神科の強制医療については筆者も体験していて、当事者にとってはわかりやすい政策です。働ける人の権利と働けない人のそれぞれの権利(生活支援と就労支援の両面)がよく検討されています。
総括
健常者と異なり、精神障害の当事者にとっては、日常生活を送ったり就労を行うのには、行政による何らかの社会的支援が必要です。自助努力ではいかんともしがたいところがあり、何らかの「公助」によって支えられる存在です。
このような背景から、精神疾患や発達障害の当事者や家族、支援者が常日頃政治に関心を持つことが、非常に大切だと考えています。
今回の衆議院総選挙という機会に、各政党の政策を通して何を自分が期待し、どの政党がその期待に応えてくれるのかをよく考え、投票という行動に変えていく必要があります。
棄権せず、民主主義における主権者の武器としての投票行動(参政権)をしっかりと行使しましょう。

参考資料 References






