筆者が2017年から障害者雇用での一般就労を始めてから、本稿執筆時点で4年以上の時間が経過しました。その間、2019年に障害者雇用1社目の会社を退職し、障害者雇用2社目の会社(現職)に転職してから2年強の間勤続しています。
本稿において、精神障害者の雇用については「有期雇用」の「契約社員」(嘱託社員と呼ばれることも)での雇用が現在のところ主流で、大前提ということでお話を進めていきます。
特に精神障害者の障害者雇用においては、勤怠が安定しない場合が多いことや雇用管理、組織への適合など難しい要素が多く、安定就労には当初から高いハードルが存在します、この点が企業側にとっても懸念要素で、当事者への処遇がなかなか良くなりません。そのため、その先のステップである正社員を含む無期雇用への転換(登用)は、まだまだその先で、道のりが遠いというわけです。
筆者にとっても、障害者雇用での1社目の会社で実現できず、現職の2社目の会社でも契約更新の回数に上限があって、いまだ将来の道のりが見えない状況です。本稿では、精神障害者にとって無期雇用の実現(正社員登用など)がいかに困難であるかを考えていきたいと思います。
目次
精神障害者の就労復帰までのステップ
ここでは、会社を一旦離職した精神障害の当事者が社会復帰し、一定の配慮を受けながら就労定着を果たし、正社員を含む無期雇用に復活するまでのステップを挙げたいと思います。企業に在籍したまま復職を目指す当事者が進むステップとは全く異なることをご留意ください。
● リワークで体調や生活リズムを整える
就労するためには体が資本ということで、まずは日常生活ができるレベルまでの回復を目指します。医療機関の「デイケア」や「リワーク」を利用することもあれば、障害福祉サービスの「自立訓練(生活訓練)」を利用するケースも中にはあるでしょう。
余談ながら、社会復帰を考える際は、障害福祉サービスの「相談支援」事業所利用を経由して、どんな支援が自分に適しているかアセスメントしてもらうことをお勧めします。
● 就労移行支援を利用して障害者雇用などで就労する
日常生活ができるようになり、就労準備性を獲得したら、就労のための知識や基礎的なスキルを訓練で習得し、実際に再就職活動を行います。自力でハローワークや障害者雇用に特化した人材エージェントなどを利用して再就職するケースもあれば、障害福祉サービスの「就労移行支援」事業所を利用するケースもあります。
このステップでは、一般企業へ障害者枠で就労するケースと、障害福祉サービスの「就労継続支援A型」事業所にて福祉的就労をするケースがあります。再就労の形態は必ずしも障害者雇用である必要はなく、障害のクローズドな状態で、健常者と同じ条件で再就労することもあります。
● 就労定着支援などの支援を受けつつ安定就労を目指す
就労移行支援事業所を利用した場合、利用を終了してから就労後、6か月間はその事業所による定着支援を受けます。引き続き、障害福祉サービスの「就労定着支援」として、さらに最長3年間定着支援を受け続ける場合もあります。
● 安定就労ができる状態になったら業務の習得を進め、正社員登用(無期雇用)を目指す
安定就労が可能になった段階で、本格的にキャリアを積むステップに入ります。長い間キャリアを積んでいくためには有期雇用から無期雇用に転換することが望ましいと考えますが、転換(登用)については企業や組織によって制度が整備され、登用実績があるケースもあれば、そのような制度がなく、一定期間の経過後に雇い止めになるケースもあり得ます(非正規公務員の会計年度任用職員がそうですし、一般企業でも契約更新の回数に上限がある場合が含まれます)。入社・入職する段階で、正社員登用実績や制度があるかどうかの確認が欠かせません。
● 無期雇用への転換(正社員登用)を果たしキャリアを積んでいく
このステップまでくれば、社会復活に成功したと言え、いわば敗者復活を果たしての一丁上がり、という喜ばしい状態を実現したことになります。精神障害の当事者にとっては、この段階にたどり着けるケースの割合はごくごく少なく、これから社会復帰を目指す人にとっては雲の上のような話だと思います。

精神障害者が正社員で就労している割合の低さ
筆者が以前、以下の別稿を投稿した通り、精神障害者保健福祉手帳を所持している当事者が正社員などの無期雇用で就労している割合は約25%と、契約社員などの有期雇用の割合と比較したら著しく低いです。
この背景には、精神障害当事者の就労継続に課題があり、就労早期の離職率が高いことから、なかなか戦力に組み込みにくい実情があること、そして精神障害があること自体戦力になりえないという偏見が暗に存在していることがあると考えられます。それどころか、入社選考時に精神疾患や発達障害の当事者を適性検査などでふるいにかけ、極力採用しないようにする圧力も強いと感じています。
したがって、精神障害者が長期的な就労を望んでも、そこに至るまでのハードルの高さがあり、ロールモデルも少ないこともあって、正社員登用を云々する以前の問題とも言えます。
障害者派遣について
障害者雇用は、原則的に企業や組織との直接雇用が前提にあって、雇用関係のクリアさが障害者雇用で就労するメリットの一つであると筆者は考えています。
しかし、世の中には「障害者派遣」なるものが存在するようです。障害者手帳を所持する当事者と雇用主である派遣元会社とが雇用契約を結んだうえで、当事者を派遣先企業で就労させる不安定な就労形態です。
これには、健常者の派遣と同様にいくつかリスクが考えられます。
● 派遣先企業がなくなり次第解雇もしくは雇い止めの可能性があること。
● 障害者の場合、必要な就労上の配慮事項が明確になりにくく、派遣元企業と派遣先企業でのすり合わせや調整が難しく、そのために当事者が必要な配慮を十分受けられずに短期離職につながるリスクがあること。
● 昨今のコロナ過で顕在化した問題で、景気が悪くなるといわゆる雇用の調整弁として派遣社員が真っ先に雇用打ち切りにされ、失業のリスクが高いこと。これは、健常者だけではなく、障害者派遣でも共通した問題だと考えます。
長期雇用でキャリアを長い期間継続するためには、以上のリスクから労働者派遣は向いてなく、最初から直接雇用を狙った方がかえって近道であると考えます(その例外は紹介予定派遣で、直接雇用実績が豊富な派遣会社を選ぶのも手かも)。
それじゃ、直接雇用である障害者雇用がいいじゃんと思いがちですが、障害者雇用には本稿で申し上げているように長期雇用の壁があります。障害者雇用の安定性には労働者派遣と似たところがあるので、障害者雇用がいくら直接雇用であっても微妙なところです。。。
法定雇用率を満たした場合の助成金(障害者雇用納付金・特開金など)
皆さまご存じのように、障害者雇用促進法によって障害者手帳所持者の法定雇用率が定められていて、企業や官公庁は従業員数の一定割合の人数を直接雇用しなければなりません。
本稿執筆時点の法定雇用率は、民間企業においては2.3%です。例えば、従業員数1,000人の企業においては、障害者を23人直接雇用しなければなりません。ただし、雇用形態については縛りがないため、正社員ではなく有期雇用の契約社員での雇用が多いのが現状です。
この例でお話しすると、この企業が23人雇用しなければならないところ、22人しか雇用できていない場合は1人分の障害者雇用納付金を払う必要があり、その金額は月額5万円、年間で60万円になります。一方で、24人雇用できている場合、法定雇用率を超過した1人分について補助金(障害者雇用調整金)月額2万7千円、年額32万4千円を受け取ることができます。
障害者などの就職が困難な人を雇用すると、雇用した企業には「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」いわゆる「特開金」という助成金を一定期間受け取ることができます。
大企業の場合は最長1年6か月にわたって上限100万円、中小企業の場合は最長3年にわたって上限240万円の助成金を受け取ることができます。
ただし、特開金を受け取れる期間にはこのように限りがあるため、受け取れなくなった時点で雇用していた障害者を雇い止めなどして、雇用継続に真に有効であるか疑問を抱かせる場合があります。助成金をもらえるうちはもらって、もらえなくなったら当事者を雇い止めや解雇で使い捨てにするという実情も垣間見えます。
どうして企業は有期雇用にしたいのか
労働契約法の規定によって、契約社員などの有期雇用かつ直接雇用の労働者が就労開始から連続して5年を経過したら、その次のタイミングで無期転換を申し出る権利が発生します。本来はそこで無期雇用されるべきですが、その直前に雇い止めしようとするやましい力が働くのです。
長期就労に対する壁としては、直接雇用の労働者に対する雇い止めの他に、最長3年間までしか同じ職場で働けない登録型派遣の場合、一旦就労を中断して6か月後に元の職場に戻るとか、派遣元の会社を移籍して3年間を超えて同じ派遣先で就労するといったケースがあるようです。いずれのやり方も、かなりブラックなやり方だととらえていただいてよいかと思います。
有期雇用が多い障害者雇用や障害者派遣のいずれも、このケースに該当します。長期雇用を実現するためには困難の多い働き方を強いられるということですが、これには企業から戦力とみなされていないことが大きいでしょう。
それに加え、精神障害者の場合、障害(精神疾患)があることを申告しただけで偏見にさらされ、この人は就労継続できるのか、何か問題行動を起こさないか、と企業側から色眼鏡で見られているのではないかと疑います。採用の時点でも法律上の無期転換の時期を迎えても、正社員などの無期雇用での採用および正社員登用にはなかなかに慎重なように思えます。
残念なことですが、これらのハンディキャップをはねのけて社会の一員として尽力するためには、職務の専門性を身に着けて、何らかの形で即戦力として働くことしかないと考えています。障がいのあるなしにかかわらず、業務のパフォーマンスで評価されるべきではありますが、これがなかなか難しい場合が多いと思います。政治や行政の介入が本来不可欠ですが、行政が求職者目線ではないため、現状では支援が不十分です。

採用面接の質問にて確認すべきこと
このように、障害者雇用での長期就労のための壁が高く厚い現状の中で、当事者は何ができるでしょうか。就職準備性を整え、専門性を身につけることがそのための助けになりますが、特に精神障害者の雇用については企業の姿勢にもかかわってくることです。正社員登用の実績を確認する他にも、例えば、次の質問を投げかけてみましょう。
「5年以上のキャリアを御社で一貫して積める可能性は高いですか?」
筆者の極論ではありますが、その質問に対する答えがあいまいならば、障害者の戦力化をまず考えていないので、入社を敬遠した方が良いのではないでしょうか。
本稿のしめは筆者の願望で
障害者雇用で無期雇用を目指すのがいかに難しいかということをつらつらと書いてきましたが、筆者自身はあきらめるつもりはありません。無期転換をいつかは果たし、当事者のロールモデルになりたい心境です。
読者の皆さまにもあきらめず、夢を実現していただきたいです。
そして、すでに無期雇用を実現して充実して働けているよという頼もしい人とは、是非ともつながりたいと思いますので、一声おかけください!
参考資料 References
● 厚生労働省 有期雇用労働者の無期転換ポータルサイト
● 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者雇用納付金制度の概要