精神障害者の社会からの排除を憂う【2022年新年挨拶】

精神疾患
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2021年の暮れに大阪・西梅田で起きた事件。社会全体が悲惨な一年であったことを象徴するような衝撃的な出来事でした。筆者も精神障害の一当事者として、とても嫌で悲しく、やるせない気分になった状態での2021年の締めくくりとなりました。

この事件が大きな引き金となってからか、社会からの精神障害者の排除ではないかと疑うことが、筆者の身近でいくつか認識できました。精神障害者が社会から排除を受けているということは今に始まったことではありませんが、ここ1,2年の間に発生した数々の事件によって、精神障害者に対する世間の見方がより一層厳しくなってしまいました。

本稿では、最近起きた精神障害者による事件とそれによる社会の反応を振り返った上で、精神障害者が社会からいかに排除されているかを、2022年の1本目の記事として綴っていきたいと思います。

本稿のタイトルは「精神障害者」としていますが、今回に限ってはその対象として、療育手帳を所持する知的障害者も含めて話を進めることとします。

目次

大阪・西梅田のメンタルクリニック放火事件

2021年の年の瀬、12月17日に大阪キタの西梅田で発生した1件の火災。最初はただの火災かと受け流していましたが、火災の現場がメンタルクリニック(精神科)であること、失火ではなく放火であったことがが分かって、筆者もメンタルクリニックに通院する一患者として大変大きな衝撃を受けました(通院先はこのクリニックではありませんが)。

このクリニックの院長先生やスタッフ、通院していた多くの患者さん、そして事件の犯人を含めて26人の命が奪われたのは、あまりにも重いです。

現在はなくなってしまったこのクリニック、午前中から開いている曜日があまりない中での金曜日午前中の放火。金曜日の午前中は通常の診療だけではなく、よりによってリワークプログラム(*)が行われる時間帯で、多くの患者さんがこの空間に集まっている中での確信的な犯行でした。

この時間帯に発生するのは単なる偶然ではなく、故意ではないかと勘づきました。その懸念の通り、このクリニックに通院していた一患者による、いわば狙われた計画的な放火事件でした。

この放火事件の報道において、放火された場所が「メンタルクリニック(精神科)」であったこと、「犯人が精神疾患で、当該クリニックに通院していた一患者である」ことが、殊更強調されていたような気がします。

報道機関も、興味本位に精神障害者の心の中にずかずか踏み込んでくるものだと感じてしまいました。

犯人が健常者であれば、単なる放火事件として処理されていたのでしょうが、今回の犯人は精神科に通院する患者という事実が、傷口を一層広げてしまったものだと思います。

この報道の影響から、精神疾患の当事者に対する世間の見る目がより厳しいものとなり、当事者が社会生活を送る上で困難が生じるのではないかと思わされる出来事がすでに起こっています。

本稿で挙げる事象は、あくまでも筆者の主観的な結びつけにすぎませんが、「精神障害者が社会にとって危険な存在である」という(誤った)社会の偏見・差別が如実に現れている現象だと思わざるを得ません。

* リワークプログラム … 精神疾患で会社を休職している人が、生活リズムを整えたり、認知行動療法を受けたりしながら社会復帰を目指すためのプログラム

障害者運賃割引からの精神障害者の除外~ある高速バス会社の話~

筆者が以前、移動のために精神障害者保健福祉手帳を呈示して、運賃の障害者割引を受けたことのあるツアーバスの運行会社。その会社は従前、障害種別の区別なしに障害者割引を適用してくれていました。高速バスの運賃割引が得にくい精神障害者にとって、障がいを持った当事者に対して親切に対応してくれる、珍しくいい会社だなと好意的に思っていました。

この会社の障害者割引について従前、本ブログの別稿にて紹介しました。

このバス会社の障害者割引の状況について、最新の状況を確認しようとこの会社のホームページを閲覧したら、たまたま障害者割引の改定についてのお知らせがあって、知ったわけです。

このお知らせでは、2022年1月11日付で、精神・知的障害者に対する運賃の割引適用を取りやめ、身体障害者のみ運賃割引の適用を継続すると告知されました。

悪いことに、割引を取りやめる時期が精神障害者については当初の告知よりも早まり、2021年12月31日付で停止されてしまいました。この時期が早まったタイミングが、よりによって大阪での放火事件が発生したタイミングに非常に近いのです。

個人的には、精神障害者のみならず、知的障害者に対しても割引を取りやめて、身体障害者だけ対象に残したというのが、「よくわからない危ない奴は遠ざけよう」という偏見に感じてしまうのです。これには、久しぶりに嫌な気持ちになりました。

あくまでも筆者の推測ですが、放火事件の悪い影響として、このバス会社は一般の乗客の理解を得るべく、精神障害者をいち早く排除しなければならなかったのではないかと推察しています。(本稿において、このバス会社を批判しようとする意図は全くありません。読者の皆さまにも、批判を控えていただければ幸いです。)

この事例では、国土交通省からの事業認可を得た普通の路線バス事業とは違い、旅行業としてのツアーバスであるため、行政からの障害者割引の要請は及びにくいと考えます。

障害者グループホームが分譲マンションに入居する是非

知的障害者が居住するグループホームが、ある分譲マンションの一室にあって訴訟になった件。その部屋の使用禁止を訴えたマンション管理組合の主張が認められる判決が出ました(2022年1月20日大阪地裁判決)。あくまでもマンションの管理規約に沿った裁判所の判断ということです。

障害者の生活の本拠で、公益性は高いが、住民の不利益より優先されることはないという判断です。裁判所の判断は正当なものですが、障害者の立場からしたら、なんだかなぁと、無力感を覚えました。

この件は、上述のメンタルクリニックの放火事件とは全く関係ありませんが、マンション管理組合の主張を考えてみると、本質的には異質なものは排除しようという考えが根付いている現れだと思います。

グループホームは障害福祉サービスの枠組みで障害者が利用できる行政サービスです。グループホームは知的障害者だけではなく、多くの精神障害者も利用していると認識しています。

この件に限らず、障害者グループホームをめぐる状況は厳しいものがあると認識しています。一戸建ての住宅をグループホームとして使用しようとしたところ、近隣の反対運動があったことも記憶しています。

障害者の住む権利が、このように脅かされているからこそ、行政の支援が欠かせません。

話が少し脱線しますが、精神障害者を取り巻く住宅事情、主な点でも以下のように困難が多いです。

● 公営住宅の供給が少なく、入居の倍率が高い

● 賃貸住宅の審査において、精神障害者という事実を知られると入居を断られる可能性がある

● 経済的に持ち家を取得できるとしても、住宅ローンを組む上で団信のハードルが存在する

行政が地域社会におけるインクルージョンを進めようとしている以上、特に障害者に対しては、グループホームを含めて、公的な住宅セーフティネットを確保する必要があります。しかし、現状施策は十分ではありません。

精神障害者であることを社会で明かすのが困難になった

筆者も所持している精神障害者保健福祉手帳。身近なところでは、自宅と鉄道の駅を結ぶ路線バスの運賃を支払う時に毎回呈示します。不覚なことに、バスの車内で手帳を見せているところを、自宅の近所の人に見られているかもしれないことを意識していませんでした。近所から白い目で見られやしないかと常に心配しています。

現に、今住んでいる賃貸住宅に入居する際、障害者手帳を所持していることは一切言わないで伏せていました。今後も隠し続けないといけないと思っています。

公営住宅の入居資格に、単身の精神・知的障害者という区分がありますが、自分の身の世話ができない場合は介助者を付けるという条件があったはずです。

民間の賃貸住宅であれば、精神障害者とみすみす分かって審査を通すオーナーさんはどれほどいるでしょうか。

住まいを確保するだけでも、これだけ懸念する点があるので、障がいを明かして社会生活を送るのがいかに困難であるかということが、簡単にお分かりいただけるのではないでしょうか。

参考資料 References

● 心療内科・精神科の受診、偏見拡大に懸念…放火事件後にネットで中傷も(読売新聞記事 2021/12/29配信)

心療内科・精神科の受診、偏見拡大に懸念…放火事件後にネットで中傷も
【読売新聞】 25人が亡くなった大阪・北新地の放火殺人事件で現場となった「西梅田こころとからだのクリニック」には、心の不調と向き合う大勢の人が通っていた。仕事や人間関係のストレスなどから、誰もが心療内科や精神科を受診する可能性はある

● 「グループホーム入居は管理規約違反」と訴訟…大阪地裁、マンションの使用禁止命じる(読売新聞記事 2022/01/20配信)

「グループホーム入居は管理規約違反」と訴訟…大阪地裁、マンションの使用禁止命じる
【読売新聞】 大阪市内の分譲マンションの管理組合が、障害者が暮らすグループホームの入居は、住宅以外の入居を禁止する管理規約に反するとして、グループホームを運営する社会福祉法人に使用禁止を求めた訴訟で、大阪地裁は20日、使用禁止を命じ

● 療育手帳及び精神障害者保健福祉手帳の障害者割引適用終了のお知らせ(オリオンツアーお知らせ 2021/12/28配信)

療育手帳及び精神障害者保健福祉手帳の障害者割引適用終了のお知らせ | 高速バス・夜行バス・オリオンバス
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